アイヌ語

【アイヌ語文法基礎】4人称の用法

4人称の用法

Irankarapte!

今回は、アイヌ語の4人称について学びましょう。

他の言語にはあまり見られない、4人称がアイヌ語にはあります。

ねこ学徒
ねこ学徒
1人称、2人称、3人称までは分かるけど、4人称ってどういう時に使うにゃ?

そんな疑問を解消していきましょう!

※この記事では、アイヌ語の沙流方言について扱います。

【アイヌ語】4人称の人称接辞

用法を確認する前に、一度4人称の人称接辞について確認しましょう。

1~3人称の人称接辞についてと、1項動詞、2項動詞については【アイヌ語文法基礎】単数人称接辞で詳しく見ていきましたね。

4人称の活用は、以下のようになっています。

主格 目的格
単数・複数(区別なし) a=(2項動詞)
(1項動詞)=an
i=

注意

4人称の主格人称接辞は、1人称包括的複数の主格人称接辞と同じです!
とても紛らわしいのですが、頑張って覚えましょう!

【アイヌ語】4人称の用法

それでは早速、用法を確認していきましょう!

用法は合わせて5つあります。

用法①不定人称

4人称の用法の一つ目に、不定人称があります。

不定人称は、
一般的な人を表す時、
または
人物を特定していない時
に使用されます。

例:
①marek sekor a=ye p ku=nu wa k=an.
―マレクというものを私は知っている。
②kamuy or wa aynu a=rayke oruspe ku=nu.
―クマによって人が殺された話を聞いた。

使用語彙
marek:魚を取るための道具 ye:いうnu:~を聞く、聞いて知る wa an: ~ている kamuy:クマ、神 aynu:人間 rayke:死ぬ oruspe:噂話

例文①では、
「マレクというもの」という表現をする時、
人物を特定する必要がないので4人称を使用し、
「a=ye」と表現します。

例文②にある、
「人が殺された」の「人」は、特定できる人物ではないため、
4人称を使用します。

用法②-話し相手を含む私たち

4人称には包括的1人称複数
つまり
「話し相手を含む私たち」を指すときに使用されます。

例:
ku=yupo, ku=sapo, sinot=an ro!
―兄さん、姉さん、遊びましょう!

使用語彙
yupo:お兄さん sapo:お姉さん sinot:遊ぶ

この文の話者は、話し相手である「兄さん、姉さん」と一緒に遊びたい!と訴えかけているので、4人称を使用します。

用法③―2人称敬称

2人称接辞を4人称に替えることで、丁寧な表現にすることができます。

いきなりですが、以下の例文を敬称にしてみましょう!

例題:
①e=rehe makanak an?
―あなたの名前は何ですか?
②makanak eci=iki siri an?
―あなたたちは何をしているの?

使用語彙
rehe:名前 iki:する

①では2人称単数である「e=」が、
②では2人称複数である「eci=」が使用されていますね。

これを4人称に置き換えましょう。

①において、名詞に4人称単数接辞をつける場合は「a=」を使用します。
②については、ikiは1項動詞なので、以下のようになります。

答え:

①a=rehe makanak an?
②makanak iki=an siri an?

用法④-引用の1人称

引用の1人称としての4人称は、アイヌ神謡などでよくみられる用法です。

アイヌ語の物語(カムイユカㇻ、ユカㇻ、ウエペケㇾなど)は、語り部が誰かの話した言葉を引用する形で語られる口承文芸ですが、
その中で、直接引用で話される場合に使用されます。

例:

“somo nukar=an na” sekor amamecikappo kamuy hawean.
―「私は見ないよ」と、スズメの神様は言いました。

この場合、引用でなければ
”somo ku=nukar na” sekor amamecikappo kamuy hawe.
という1人称の文となるはずです。

直接話法の引用文では、
引用文中の「私」と実際にこの神謡を語っている語り部自身とを区別するため
引用文中の「私」を4人称で表現する場合があります。

用法⑤-叙述者の人称

5つ目の用法も、同じくアイヌ語の物語にて使われる用法です。

アイヌ語の物語であるカムイユカㇻ、ユカㇻ、ウエペケㇾでは、基本的には登場人物の視点で物語が語られます

その中でも特にユカㇻとウエペケㇾでは、その叙述者の人称は4人称で表示されます。

一方で、物語中に1人称単数「ku=」や1人称複数「ci=」「=as」が出てきたら、
語り部自身を指しています。

アイヌ民族は文字を使わないため、物語や神話はすべて口伝で、
一定のリズムを保ちながら、音程をつけて語られることが多いです。
アイヌ神謡には様々な種類がありますので、詳しくは
アイヌ文学の奥深い世界をご覧ください。

【アイヌ語】4人称のまとめ

4人称の用法

①不定人称:一般的な人を表す
②話し相手を含む私たち
③2人称敬称
④引用の1人称:物語の中で使用される
⑤叙述者の人称:物語の中で使用される

4人称をマスターするのには時間がかかりますが、
これからもアイヌ語学習、頑張りましょう!

それでは!
apunno paye yan!

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ゆづ
ゆづ
東京外大ジャパ科4年。外大オケ元コンサートマスター。内閣府「世界青年の船」既参加青年。人と話すことが好き。趣味はポストカード集め。