外大生チャレンジ

香港デモで催涙ガスを浴びた外大生。専門家には語れない衝撃の実話とは

香港デモ

5月28日の全人代(全国人民代表大会)において、中国政府は香港の反政府的な活動を取り締まる「国家安全法制」の導入を決めました。

中国の全人代=全国人民代表大会は、最終日の28日、香港で反政府的な動きを取り締まる「国家安全法制」を導入することを決めました。香港では、中国の統制が強化され、高度な自治を認めた「一国二制度」が崩壊しかねないとして、抗議活動がさらに激しくなることも予想されます。
(引用:NHK NEWSWEB|「中国 『国家安全法制』導入を決定 香港への統制いっそう強化へ」)

これによって、「一国二制度の崩壊ではないか」とか「アメリカとの関係悪化は避けられない」といったさまざまな憶測が飛び交っています。

さて、今回はそんな香港に留学していたある一人の日本人留学生のお話です。

香港大学荒れたキャンパスのなかで勉強に集中する学生

政治や医療の専門家には語れない、学生ならではの貴重な生の話をたくさん聞くことができました。

世界が注目した香港の激しい抗議活動。得体の知れない殺人ウィルス。これらを目と鼻の先に感じたリュウさんの波乱の留学生活を画像や動画とともにお届けします。

※本件に関する追加取材依頼や問い合わせには、個人情報保護の観点から対応しかねますので、何卒ご理解いただきますようよろしくお願いいたします。

香港デモで催涙ガスを浴びた外大生。専門家には語れない実話とは

テレビでは報道されない留学生の香港ストーリー

ひなちゃん
ひなちゃん
はじめまして!今回はインタビューをお引き受けくださりありがとうございます!
りゅうさん
りゅうさん
はじめまして!こちらこそ貴重な体験をありがとうございます。専門家ではないので、政治的なことについては語れませんが、逆に彼らには語れないであろう、僕の生の体験をお届けできたらなと思います。こちらこそよろしくお願いいたします。

そもそもなんで香港にいたの?

ひなちゃん
ひなちゃん
では、まずリュウさんはなんで香港にいたのか教えていただけますか?
りゅうさん
りゅうさん
はい!僕は、香港大学との交換留学生として、2019年8月に香港に渡り、9月から留学を開始していました。
ひなちゃん
ひなちゃん
授業開始より、ちょっと早めに渡ったんですね?
りゅうさん
りゅうさん
はい。家を探すためです。大学の提携校だったのですが、一部の私立大学の交換留学制度とは違って、住むところは自分で用意しないといけなかったんです!(泣)オンラインでの寮予約争奪戦に敗れてしまったので、ちょっと早めに向かいました。外で借りるとシェアハウスでも月10万円以上するんです!
ひなちゃん
ひなちゃん
ひえぇ!それは大変だ!大陸の大都市、北京ですら5万円でしたよ!
りゅうさん
りゅうさん
えー!そうですか!でも、まぁ結局2週間後くらいに、寮に空きがでて2次募集枠で入居することができました!
ひなちゃん
ひなちゃん
それはよかった!

専攻は地理!調査方法は「ドローン」?!

ひなちゃん
ひなちゃん
香港大学ではどんなことをしていたんですか?
りゅうさん
りゅうさん
地理を専攻して、英語で授業を受けていました!街と人のネットワーク、環境史とか環境と人の関係について学んでみたかったんです。
ひなちゃん
ひなちゃん

あ、英語で授業を受けていたんですね!じゃあそもそもなんで香港大学なんですか?

りゅうさん
りゅうさん
留学中は色んな人の色んな意見を聞きたかったんです。香港の大学はイギリス式で、一つの授業に対するディスカッションの時間がとても長いのが特徴です。そのほかには、地理分野での国際ランクが高いこと、大学の協定校でもあったことが挙げられます。
ひなちゃん
ひなちゃん
突然ですけど、何か、面白い授業の思い出はありますか?
りゅうさん
りゅうさん
そうですね…。9月は座学の他にも、フィールドワークもしていましたよ!なんかね、“ドローン” を使って地形を見たりしました。初めてドローンを操縦したので興奮したのを覚えています!

突如迫りくる警察、そして催涙ガス

ひなちゃん
ひなちゃん
すこし話がもどりますが、8月香港に着いた時の雰囲気はいかがでしたか?
りゅうさん
りゅうさん
着いたときから緊張感を感じていました。渡航前から香港の様子について色々話を聞いていたからでしょうか…。特に8月31日がヤバいな…と感じた最初の日でした。
ひなちゃん
ひなちゃん
ヤバイなというのは?
りゅうさん
りゅうさん
31日、私が住んでいたマンションの下では朝から晩までデモが行われていて、彼らが少し静まった夜にマンション下にあるスーパーに行こうとしました。十分に警戒しながら出ていくと、スーパーがしまっていることがわかりました。被害を最小限に抑えるためでしょうか。

それで「しまってんのかー!」と思って帰ろうとしたころ、大量のデモ集団が押し寄せてきました。「まずい!」と思ったその頃にはもう遅かった。警察が大勢で攻めこんできて、デモ集団に対して催涙ガスなどで応戦しはじめました。それが実際に催涙ガスを浴びた最初の日です。涙こそ出なかったものの、喉がガラガラしたのを覚えています。あと、勘違いかもしれないんですが、催涙ガスはとても甘かったです。

ひなちゃん
ひなちゃん
それは…。なかなか緊迫した場面に出くわしてしまいましたね…
りゅうさん
りゅうさん
そうですね。でも、まぁ基本的にデモっていうのは行う前に「何時にどこどこでデモをします!」と表明してから行うので、それ以降のデモは回避できました。今回のは急に始まったし、真下で起きたから簡単に食料確保しに外に出れなかったしで、回避しきれませんでした…。
ひなちゃん
ひなちゃん
そうですか。難しい環境にあったかと思います。でも、デモの回避は出来るものなのですね?!
りゅうさん
りゅうさん
そうですね。テレビを見てると「乱発!」とか「警察が勝手に攻撃!」とかいうイメージを持ってしまうかもしれませんが、基本的には、本当に基本的には、デモ開始の合図や応戦開始の合図(例:「10分後に~を撃ちます」)が掲げられます。九月は毎週末デモが行われましたが、授業は平日だったので特に影響はなかったです。他の大学はわかりませんが…。
ひなちゃん
ひなちゃん
デモは学校内で行われたりしないんですか?
りゅうさん
りゅうさん
もちろん校内の場合もありましたよ!でも、9月の校内デモはそんなに激しくなかったです。なんかスローガンやなにかを掲げて歩き回る感じでしたね。
ひなちゃん
ひなちゃん
そうですか!それはまだよかったですね!
りゅうさん
りゅうさん
ただ10月1日の校内デモは少し激しくなりました。

10月1日は国慶節で、大陸出身の方々がナショナリズムを高ぶらせていました。中国国旗を高々と掲げたり壁に貼っていたりしていたので、政府の政策に反対している香港出身の方々と激しい喧嘩を繰り広げていました。

ルームメイトは上海人だったんですが、「『ひとくくりに中国(大陸)は!』って言われても…」と複雑な心情を吐露していました。北京上海などが大好きな私も形容しがたい感情になりました…。

大変だ!警察が市民に発砲したぞ!

ひなちゃん
ひなちゃん
じゃあ、10月以降はかなり緊迫した状況が続いたんですか?
りゅうさん
りゅうさん
そうですね。特に11月11日は「警察がデモ参加者に至近距離で発砲した」という出来事が起こって、その動画が瞬く間に拡散されたので、香港全体の雰囲気がより一層悪くなりました。

さらに追い打ちをかけるように、いくつかの企業が中国政府の見解を支持するような表明を出したこともあって、その企業に対する迷惑行為を行ったり、警察などが利用していた地下鉄への攻撃を始めたりしました。

香港警察発砲の現場周辺で抗議する市民ら(朝日新聞社)

 

ひなちゃん
ひなちゃん
その発砲が香港情勢を大きく変えてしまったのですね。
りゅうさん
りゅうさん
体感としては、あの発砲が起爆剤となったと言えそうです。

そして、地下鉄が壊されたことによって、授業がなくなってきました。香港大学駅がぼこぼこになって電車が止まらなかったりしたんです。あ、入口の写真はあるので送りますね。

香港大学駅入口がバリケードで覆われる香港大学駅
ひなちゃん
ひなちゃん
わわわ、入れないようになってるんですね…。
りゅうさん
りゅうさん
はい。まぁ、それでも、デモが起こるときには、事前告知があったから「これは危険だ!」と思うことはなかったです。デモが多すぎて麻痺してたのかもしれませんが…(汗)
ひなちゃん
ひなちゃん
そうですか。では、そもそもの話で、一連のデモのリーダーっていうのはいたんですか?
りゅうさん
りゅうさん
僕は専門家じゃないのでよくわかりませんが、一人の住民としての感覚では、「リーダー不在のデモ」という感じでした。ネットで呼びかけて実際に行動を起こす感じ?!初めは、逃犯条例の改正に対しての反対がメインだったと思います。ですが、要求がエスカレートしていって、いわゆる暴徒も現れてきて、「一体このデモはどこに向かっているのか?」という状況でした。

学校に警察が来る!投石器を作ろう!偵察方法は、またも「ドローン」!

ひなちゃん
ひなちゃん
11月以降の学校の様子はいかがでしたか?
りゅうさん
りゅうさん
だんだんとオンライン授業が増えてきました。でも、寮の楽しいイベント?!は盛んに行われていましたよ!

月に一回、必ず参加しなきゃいけないパーティがあって、なかなか盛り上がっていました!OBがキャリア講演会をしてたりしました。

まぁ、OBは広東語で喋ってたので、みんな笑ってるのに「わかんねぇ!」って感じでした(笑)でも、参加しないとペナルティがあったんで、全部ちゃんと参加しましたよ(笑)

ひなちゃん
ひなちゃん
そうですか(笑)広東語で話されたらわかりませんね(笑)そのほかに何か大きな出来事はありましたか?
りゅうさん
りゅうさん
11月になると学生の活動が大きくなってきたんで、警察が調査しにくるようになりました。このころには香港中文大学とか理工大学といった教育機関が主戦場になってきたんです。

香港大学はというと、警察が入って来れないようにエレベーターを破壊したり、警察車両が入って来れないように道路に削ったレンガをならべていました。レンガの方は効き目が無かったようですが、エレベーターの破壊の影響は計り知れなかったです。これによって授業も完全にストップすることになりましたので…。

それから、メインビルディングは丘の上に立っている感じだったので、抗議活動をする人たちは下に向かって石投げたり、投石器を作って応戦に備えたりしてました…。投石器って…。そう、ちょうどこんな感じの…。

ひなちゃん
ひなちゃん
わ…。本当に投石器だ…。それで、警察がこちらに向かっているかどうか、というのはどうやって確認してたんですか?
りゅうさん
りゅうさん
寮の子が“ドローン”を飛ばして確認してました。すごいですよね…。
ひなちゃん
ひなちゃん
またしても“ドローン”ですか…!たしかにそれはすごい…。

授業の中断と一回目の緊急帰国

ひなちゃん
ひなちゃん
私の友だちの話では、大陸出身の方々は深圳に一時避難したと聞いていますが。
りゅうさん
りゅうさん
そうですね!中央政府によって?!デモ回避のための深圳への直行便が用意されていたので、大陸から来た子たちのほとんどが大きなスーツケース片手に深圳に逃げていきました。近くに逃げる場所がない留学生としてはとても大きな不安に苛まれました。これからもっと大きな戦いが始まるのではないかと…。
ひなちゃん
ひなちゃん
授業も止まったし、帰ろうと思わなかったのですか?
りゅうさん
りゅうさん
思いました!大学からの要請もあったので、11月30日に緊急帰国することになりました。
ひなちゃん
ひなちゃん
帰国後はどうしていましたか?
りゅうさん
りゅうさん
来学期の留学はなくなるかもしれないから、就活準備するか迷っていました。とりあえず、連絡を待っていました。すると、12月中旬くらいに「来学期は授業行います」との通知が来たので、日本の大学に相談して、安否確認報告を毎週行うことを条件に留学許可をいただきました。
ひなちゃん
ひなちゃん
それで、香港にはいつ戻ったんですか?
りゅうさん
りゅうさん
1月2日に戻りました。1月1日は正月ですね!家族団らんでした。

コロナとの闘いが始まる。防護服を着た救急医が寮に…

ひなちゃん
ひなちゃん
授業が始まるまではどのように過ごしてましたか?
りゅうさん
りゅうさん
香港大学の日本人の友だちに就活情報をきいたり、自分磨きしたりしていました。ダイエットとか。2キロ痩せました(笑)
ひなちゃん
ひなちゃん
後期はいつから?
りゅうさん
りゅうさん
1月20日に始まりました。それでいざ学校についてみると留学生の数がドッと減っていることに気付きました。国籍関係なくみんな減っちゃってました。

もともと香港にいる日本人は7、80人と言われていたんですが、その時には15人くらいに減っていいました。香港中文大学のほうは、留学生全体が10分の1に減っていたとか…。もしかしたらデモだけでなく、コロナの影響もあったかも。

ひなちゃん
ひなちゃん
そうか!1月って、新型コロナが中国で広がり始めたころですね…。実際に何か影響はありましたか?
りゅうさん
りゅうさん
1月24日に、僕のいた寮で「感染者が出た」という話が飛んできました。本当に噂であればいいのですが、防護服を着た救急医が自分の寮に来たのを友だちが確認したのは確かです。写真も送ってきてくれました。それから見えない敵との闘いが始まり、自分は部屋にこもって、毎日震えて寝ていました。

授業はというと、香港での感染者が5、6人になったときに、オンラインに完全移行しました。それは春節(1月25日)くらいだったかな。なので、1週間くらい登校して、すぐに動けなくなった感じです(泣)

ひなちゃん
ひなちゃん
そうですか…。またもオンライン授業…。デモへの対応に慣れてきたところに、思わぬ敵が現われたんですね…。

二度目の緊急帰国と、「オンライン留学」

ひなちゃん
ひなちゃん

それで、その後はどうしたんですか。

りゅうさん
りゅうさん
2月初めにWHOの勧告があって、連動するように外大から「帰国するか、より安全な国に移動すべし」との連絡が来たので、2月5日にベトナムに移動しました。友だちと3週間くらいホーチミンに滞在していました。それで、感染拡大が続くようだったので、2月22日に日本帰国することになりました。
ひなちゃん
ひなちゃん
本当にずっと大変だったんですね…。それじゃあ、日本に帰ってきてから、どうしていたんですか?留学終了?
りゅうさん
りゅうさん
いや、2月に日本に帰ってきてから、香港大学の授業はオンラインで継続していました。去年のデモの影響でオンライン授業を経験していたせいか、インターネットへの移行がスムーズだったと記憶しています。

それで、つい最近その香港大学のオンライン授業も無事終わり、自宅留学?!(笑)が終わりました。驚きだったのは、その間、外大が外大の授業履修も許可してくれたことです。四月中は二つの大学の授業を受けていました。貴重な体験ですね。

ひなちゃん
ひなちゃん
となると…。実際に教室で授業を受けたのは…。
りゅうさん
りゅうさん
それは聞かないでほしい(笑)そうだな。しっかり受けれたのは9月から11月中旬ですね。でも、10月の途中で止まったりもしたから、全留学期間のうち2ヶ月ちょいかな(笑)短期留学かな?(笑)

「国家安全法制」の成立と今の気持ち

ひなちゃん
ひなちゃん
そして、つい先日の5月28日に「国家安全法」が成立しました。お友達から何か連絡は来ましたか?
りゅうさん
りゅうさん
うーん、香港の友だちはストーリーに何か載せていたかなぁ。留学中は外国人として、特に国情に干渉することはなかったので、向こうから直接連絡が来ることはなかったです。香港大学キャンパスでの反乱もあったのかもしれませんが、特に聞いてはいないです。
ひなちゃん
ひなちゃん

そうなんですね…。たしかにいつも政治的なことを話しているわけでなければ直接連絡しないかもしれません。それじゃあ最後に何かメッセージはありますか?

りゅうさん
りゅうさん
うーん...。とにかく早くみんなに会いに行きたいです…!
ひなちゃん
ひなちゃん
そうですよね(泣)私もそうです…。

…。はい!それでは、今日のインタビューはここまでです!長い間お付き合いいただき、本当にありがとうございましたっ!

りゅうさん
りゅうさん
いえいえ!つい喋りすぎちゃったからまとめるの大変ですよね(笑)こちらこそありがとうございました!

(以上)

※本件に関する追加取材依頼や問い合わせには、個人情報保護の観点から対応しかねますので、何卒ご理解いただきますようよろしくお願いいたします。

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