日本の国語の教科書ではお馴染みの『春暁』。
その書き下し文は暗記している人もいるかもしれません。
今回は『春暁』の意味の解釈と作者「孟浩然」の人生について、そして技法を解説していきます。
『春暁』の本文と書き下し文
まず『春暁』の本文と書き下し文をチェックしておきましょう。
春眠不覚暁
春眠暁を覚えず
処処聞啼鳥
処啼鳥を聞く
夜来風雨声
夜来風雨の声
花落知多少
花落つること知る多少ぞ
『春暁』の現代語訳と解説
まずは、一句ごとに現代語訳を見ていきましょう。
春眠不覚暁
春眠暁を覚えず
春の眠りは夜明けに気づかない
処処聞啼鳥
処啼鳥を聞く
あちこちから鳥のさえずりが聞こえてくる
夜来風雨声
夜来風雨の声
昨夜は風や雨の音
花落知多少
花落つること知る多少ぞ
花はどれほど散ったことだろう
全体としては、春の早朝の眠りの心地よさを題材にしています。
故郷の生活の中での詩とみるのがふさわしく、倦怠感のある布団の中から雨上がりの澄んだ空気の中を思い浮かべています。
その空気の中は一面に敷き詰められた花々が美しく、散った花にも春の豊かなエネルギーを感じ取れるような空間です。
同時に、散り落ちた花びらに去りゆく春を惜しむ寂しさが込められています。
また、この詩は仕事に対する悔しさもあるのかもしれません。
彼は官人にはならず、放浪をする人生を過ごしました。
官僚になれば朝早くから入庁する規則正しい生活が待っているため、このような怠惰な生活は特別なものだったのです。
士官できないことに対する鬱屈した気持ちもあるかもしれませんが、詩の中ではそれとは反対の春の心地よさを表現していると考えられます。
『春暁』作者の孟浩然について
『春暁』の意味や解釈を理解したところで、作者の孟浩然について知っておきましょう。
孟浩然(もう・こうねん 689-740)は唐代を代表する自然詩人の一人です。
字(あざな)は浩然で、名は浩です。
彼は一生官職につかなかった隠棲の詩人でした。
一方で士官になることは長年諦めず、その夢をうたったこともありました。
官人として出仕する夢と超俗的な生活という反対の事象の世界を揺れ動いていた人でした。
その憂いが詩にあらわれ、杜甫からは「清詩」と評価されるほどになりました。
『春暁』の技法
最後に『春暁』の技法として、形式と押韻を理解しておきましょう。
形式
漢詩は句数と字数で形式が決まります。
『春暁』は五言絶句といわれる形式をとっています。
この機会に形式の規則も覚えておきましょう。
形式 | 五言絶句 | 七言絶句 | 五言律詩 | 七言律詩 |
---|---|---|---|---|
句数 | 四句 | 四句 | 八句 | 八句 |
字数 | 一句五字 | 一句七字 | 一句五字 | 一句七字 |
押韻
押韻は音の末が同じ字を決まった句末に置いて韻を踏むことです。
形式によって押韻の場所は決まっており、五言絶句は二句・四句の末字の音が押韻します。
当時の発音と日本語の現代の音は違いますが、押韻できているかは、日本語の音読みの音で確かめることができます。
一句 | 暁 | gyou |
二句 | 鳥 | chou |
四句 | 少 | shou |
まとめ:『春暁』の意味と孟浩然
孟浩然『春暁』は春の早朝の眠りの心地よさを詠んだ詩でした。
ゆったりとした春の時間を散ってゆく花びらと共に表現しており、同時に作者の官職を諦められないもどかしさも読み取ることができました。
漢詩の王道作品である『春暁』を理解することはできましたか?
技法の面も理解しながら漢詩を楽しみましょう!
佐藤保 (1992) 『漢詩のイメージ』東京: 大修館書店.
二宮美那子・好川聡(2020)『王維・孟浩然』王維・孟浩然原著, 「新釈漢文大系」詩人編:3,東京: 明治書院.